3443通信 No.371
耳のお話シリーズ50
「あなたの耳は大丈夫?」28
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~


私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。
聴覚活用によるボケ防止
▼聴力低下はボケの引き金?
耳が聞こえにくくなったときこわいのは、聴力の低下そのものより、人との対話が不足することです。他者とコミュニケーションする能力がおとろえていくのです。
話しかけられても言っていることがわからない。何度も言ってもらってやっとわかったと思ったら、聞きまちがえてとんちんかんな応対をしていた。そのうおり、相手も自分もうんざりしてきて、やりとりがめんどうになってしまう……。
こんなことを繰り返すうち、人と話すのを避けるようになってしまうお年寄りもいます。
しかし、人とコミュニケーションをとる力は、使わないとどんどんおとろえていきます。
よく聞こえない、だから話さない、という状態が長く続くと、やがて、聞けない、話すことができない、という状態にもなってしまうかもしれません。本当なら低下した聴力を補ってくれるはずの聴能も、こうなってしまっては発達しないでしょう(図43)。

図43
ただでさえ、耳から入ってくる音声情報による刺激は少なくなってきているのです。そのうえ人とコミュニケーションすることまで、やめてしまったら、脳が老化の一途をたどるのは目に見えています。
聴覚の低下がボケの引き金にならないためにも、積極的に人とかかわることをおすすめします。
▼脳で音を聞くトレーニング
聴能のトレーニングは、ボケ防止のトレーニングにもなります。聴能とは、脳で音を聞く能力といってもいいからです。
知識を吸収し蓄積するには、知的好奇心を旺盛に保ち、常に学習意欲を持っていなければなりません。
そして、言葉の引き出し、経験の引き出しを豊富に頭の中にそろえておいて、わずかな音声情報や視覚を手がかりに、類推などをフルに働かせて、その中からぴったり合う答えを探し出していくのです。
言葉で説明すると大変なことのようですが、この回路を一度頭の中に確立してしまえば、脳はこの作業を一瞬にしてやってのけるようになります。
あとは回路を錆びつかせないよう、日々、他者とのコミュニケーションを大事にしていけばよいでしょう。そうすれば、脳細胞が活性化されて、いつまでも鋭敏な反応を示すことができます。これは、聴覚を活用したボケの防止法といってもいいでしょう。
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