3443通信 No.373
耳のお話シリーズ51
「あなたの耳は大丈夫?」30
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~


私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。
聴覚と視覚の併用効果
▼聴覚と視覚は相乗的に補いあう
テレビの加工音声のシーンはもとより、多くの番組に字幕が入れられるようなることは、補聴器などを装用して、できるだけ情報豊かに生活しようと努力している人々にとって喜ばしいものです。
かつての聴覚研究では、独話や手話と補聴器を同時に使用すると、互いに干渉しあって聴覚の働きが不利になるといわれたこともあります。
しかし、最近の聴覚研究の結果からは、むしろ視覚的情報と聴覚的情報は、たがいに補完しあい、相乗的に全体の了解度やコミュニケーション能力を高めることが知られています。
「よりよく聴こうとする手がかりは、よりよく見ようとする心にあり、また、よりよく見ようとする心が、よりよく聴こうとする心を育てる」(図44)

図44
子供の聴能の発達についても、このように考えられるようになってきました。
また、「よりよく知ろうとする心が、感覚を鋭くする」ということもいえ、聴能訓練や聴覚学習の基本は、このあたりにあるといえるでしょう。
これは子供に限らず、高齢者にもそのまま当てはまることです。
日々の生活の中で、いつも新しく何かを聞こう、何かを見よう、何かを知ろうとする意欲があれば、おのずと聴能が開発されていき、聴力の低下による不都合が生じるのを最小限におさえることができるにちがいありません。
▼視覚的情報で聞こえの手がかりを得る
聞こえにくさを補う視覚的情報としては、相手の表情、発音するときの口の形、その場の状況などがあります。
表情や口の形はとりわけ重要で、唇の動きから何を話しているのかを読み取る、「読話」という方法もあるほどです。
聴覚障害者にとっては、音声による情報だけで話を了解するのは困難なことですから、対面して相手の顔やしぐさを見ながらコミュニケーションをとるのが、いちばんわかりやすい方法です。
相手がテレビや映画なら、字幕を入れてもらうと、理解の度合いがグンと向上します。
字幕のおかげで、今まであいまいだった音声情報がきれいに修復されてすんなり脳に届くようになるのです。
男性の声、女性の声、どちらが聞きやすい声なのか?
●男声と女声
理屈でいえば、高い音が聞こえにくくなったお年寄りの耳には、低い周波数の男性の声のほうが聞きやすいはずです。
しかし、いろいろな実験の結果から、実際に聞きやすい声というのは、男女の別なく、聞き慣れた声であるということがわかっています。
一定の高さ、一定の音量で、いろいろな人の発する同じ言葉を聞かせてみると、被験者の耳は、配偶者とか子ども、孫といった家族や、自分の世話をしてくれる人など、身近にいてよく知っている人の声にもっとも敏感に反応します。
とすると聞きやすい声の究極は、長年慣れ親しんだ自分の声ということになるでしょうか。そのため、男性に耳には男性の、女性の耳には女性の声が、聞きやすいようです。
●聞きにくい声
キキンした甲高い声でペラペラ早口でしゃべる人の話は、聞き取りにくいものです。これは健康な耳をもった人でも感じることですので、思い当たる人は一度自分のおしゃべりをテープに録音して聞いてみるといいかもしれません。
なお、日本女性の声は欧米の女性の声と比べて高いと感じる人が多いようです。日米の比較データを見ると、男女ともに日本人の声のほうが高いという結果が出ています。
これは英語が音の強弱でアクセントをつけるのに対し、日本語は声のトーンの上がり下がりでアクセントをつける言語であるということが原因のひとつのようです。高音から低音へと流れていく話し方も日本語の特徴なので、トータルでみると声が高くなってしまうのでしょう。
また、街の中に騒音が満ちた落ち着きのない音声環境の中では、人は高いトーンでワーワーしゃべるようになります。発展途上国の言語が、おおむねけたたましく聞こえるのは、このへんに理由があるのかもしれません。
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