3443通信3443 News

 

3443通信 No.378

 

耳のお話シリーズ57
「あなたの耳は大丈夫?」35
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~

図00a図00b


 私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
 その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。

聞き取りを損なう環境騒音チェック
▼難聴の耳は騒音に弱い
 高速道路のサービスエリアなどの公衆トイレで、スピーカーから流水音が出てきてびっくりしたことはないでしょうか。あれは水温のノイズで排尿音を消す装置ということですが、このように音には別の音を消してしまう性質があります。
 聞きたい音声があるのに、周囲にそれを妨げる音があると、聞こえないのです。難聴者の耳では、とくにこの傾向は強まります。
 なかでもやっかいなノイズは、大勢の人の声が混じって生じる音です。マルチトーカーノイズといいます。擬音で表わせば、ガヤガヤとかザワザワと表記される、あのざわめきです。聴覚のおとろえた人にとって、ここからひとりの声を聞き取るのはまったく至難の業です。

▼マルチトーカーノイズ
 雑音の中で聞きたい音をどれだけ聞き取ることができるかを調べる実験があります。
 スピーカーから短い文章の音声を適応な大きさで流し、それを聞いて聞き取ってもらいます。そのとき、同時に大勢の人がガヤガヤと騒いでいる雑音(マルチトーカーノイズ)も流します。

 実験の結果は下図の通りです。聴力が正常な成人10名がまちがいなく聞き取れたときの、音声と雑音の音圧レベルの差(S/N比、信号対雑音比)は、平均するとマイナス5デシベルでした。
 聴力が正常な人は、聞こうとする音声が周囲の雑音に比べて5デシベル小さいにも関わらず、100パーセントの聞き取り能力を発揮したのです。
 同じ実験を、補聴器をつけた難聴の成人にもしてみました。すると、同じマイナス5デシベルの条件では何も聞き取れず、まったく歯が立ちません。

 そこで、聞き取れるようになるまでしだいに雑音を弱くしていったところ、プラス10~15デシベル(聞きたい音声が雑音よりも10~15デシベル大きい)の条件で、ようやく聞き取り能力が発揮されたのです。
 つまり、難聴の人が聞きやすい環境は、健康な耳の人に比べて約15~20デシベル静かだとよい、ということがわかったのです(図49)。

図49 P.114
 図49


▼聞き取りの邪魔になる音
 正常な聴力をもつ人には気づきにくいのですが、難聴者にとって聞き取りの邪魔になる雑音はいろいろあります。
 たとえば、金魚の水槽のエアポンプの音がそうです。これはブクブクという低い周波数の音が絶えず出ているので、難聴の人にとってはつらい雑音です。
 学校の教室に水槽があると、補聴器をつけている難聴の児童は、授業を聞くのが非常に困難になります。エアポンプの音で先生の声が消されてしまうからです。
 お年寄りなら、居間にエアポンプつきの水槽があると、家族の会話やテレビの音が聞き取りにくくなります(図50)。

図50 P.115
 図50


 このとき、補聴器の性能が悪いからと別の補聴器に買い替えても、さほど聞こえはよくなりません。それよりも、水槽を別の部屋に移したほうが、はるかによく聞こえるようになるのです。
 ほかにも、家電製品の発するブーンという音、冷蔵庫のモーターの音など、健康な耳の人なら気にもとめないようなささいな雑音が、難聴の人にとっては聞き取りの邪魔になるやっかいな音になるのです。


【前話】「あなたの耳は大丈夫?」34

[目次に戻る]